隙間でダンス

せまい

コカ・コーラの空き缶が

今年の夏は暑い。暑すぎる。暑さのせいで一週間に一万人が倒れたらしい。無理もない。それほどまでの猛烈な暑さだ。最近では、あまりに暑いから人間以外のものも倒れている。犬や、猫、電柱なんかも倒れている。それだけではない。ガードレールも鉄塔も倒れたし、浜辺に置かれたコカ・コーラの空き缶も倒れた。誰かの幸せだった時代が倒れた。挫折した友人が倒れた。倒れたものの上にさらにものが倒れて、もはや辺りは、人間か瓦礫か区別がつかないくらいになっている。もしかしたらそれらは元から似たものだったのかもしれない。しかし今となっては真実はわからない。倒れたものたちに近づくと、どうやら何か言っている。とぎれとぎれのかすれた声だ。ものが倒れる音の合間に、微かな声だが確かに聞こえた。「もうたくさんだ――」。

倒れずに残っているものは、「AIによる映画の作り方」と「恋愛の技術」くらいしかない。