隙間でダンス

せまい

飛行ねこ

あ、飛行機雲だ、と思ったら、そうではなくてそれは飛行ねこだった。飛行ねこは飛行するねこで、連なって飛ぶから飛行機雲とよく間違える。西へ、西へ、飛行ねこは夕日に向かって一列になって飛んでいく。四肢でゆっくりと空を蹴り、頭を上げて彼方を見つめ、悠然と飛行するその様子は、音のない映画みたいな沈黙に満ちている。

 

見上げた拍子に、とろり、と、耳の奥の水が抜け出るのを感じた。昼間のプールで入ってしまっていたのだ。体温より熱い水が流れ出て、耳からわたしが溶けてしまいそうだ。日中の熱風も夕方にはおさまり、身体のだるさと空腹が心地いい。

 

遠くでチャイムが鳴った。たまにしかならないチャイムだから今日は運がいい。「きょうのひはさようなら」のメロディーが風に乗って流れてくる。いつまでも、たえることなく、ともだちで、いよう。飛行ねこがゆっくりと進む。

 

ひこうねこだ、と、どこかで子どもの声がした。ちがうよ、あれは飛行機雲だよ、とお母さんの声がした。飛行ねこは飛行機雲とよく似ているから、まちがえても仕方ないね。